松山地方裁判所 平成2年(行ウ)1号 判決
原告
白山敏治(X)
右訴訟代理人弁護士
佐伯善男
被告
(前三瓶町長) 上田勲(Y)
右補助参加人
三瓶町
右代表者町長
山本昌夫
右両名訴訟代理人弁護士
米田功
同
市川武志
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
二 本件については、第二の一のほか、次の事実が認められる(末尾に証拠を付記した事実以外は、当事者間に争いがない。)。
1 町は、八幡浜市の南方、道路距離で約一二キロメートルのところにあり、宇和海の入江に臨んでいる。人口、世帯数ともここ数年はほぼ横ばいで推移している。代表的企業として、酒六株式会社の紡績工場があったが、現在、この工場は廃業となり、跡地は宅地分譲されている。本件売買当時の経済は停滞気味であり、昭和六〇年度と同六三年度とを比べれば、年間商品販売額は約一〇パーセント落ちているが、消費性向はさして落ち込みはない。
(〔証拠略〕)
2 前記埋立地は、三瓶町役場の北北西方、道路距離約七〇〇メートルのところにあり、三瓶町中心部である朝立地区の西端部に位置し、当初は、公営住宅や保育園などが建設される予定だったようである。しかし、埋立竣工後、この建設は実現しなかった。
(〔証拠略〕)
3 三瓶町議会では、農協への売却後、遊休地となっていた残りの埋立地につきどうするのかという質問が出て、町長は、「近々、土地利用計画特別委員会に了解を求めて売買するようにする。」と答弁した。土地利用計画特別委員会内部でも、売却についての話が出ていた。
埋立地の売却の希望について、吉岡貢が、昭和六一年から、農協へ売却された土地付近の土地につき、強く売却を希望していた。また、本件土地の各買主らは、平成元年七月ころ、それぞれ買い受けた土地の売却を希望した。その他、本件土地につき、売却希望者があったことを認めるに足りる証拠はない。
このような状況下で、町長ら行政担当者は、埋立地の売却を検討した。本件土地のほか、二区画の売却(うち一区画は前記吉岡への売却分)も同時に検討された。そのときとられた方針は、地場産業の振興に役立つような買主に売り渡すこと、地価高騰を引き起こさないことである。そして、町長は、売却する具体的な区画や売却価格につき、平成元年六月から八月にかけて、土地利用計画特別委員会及び町有財産処理委員会に諮問した。土地利用計画特別委員会は、本件埋立地以外の土地も含め、町有地の処分などを検討するため、町議会の決議により設置することとなった町長の諮問機関である。構成員は、議長により議員の中から指名された。町有財産処理委員会は、三瓶町規則により設置される町長の諮問機関であり、構成員は、議会の常任委員会である総務文教委員会の構成員が兼務する。平成元年七月末には、町内部では、売却する区画及び価格がほぼ決まっており、同年八月二八日には町有財産処理委員会の、同年九月二日には町議会全員協議会の、それぞれ了承が得られた。そして、平成二年二月一日ころ、売却する土地の測量及び分筆登記手続が終わったので、本件売買契約が正式に締結された。吉岡は、同月一五日に、埋立地の東端付近にある朝立字畑岡一番耕地五四六番四六(地目雑種地、面積一一二・八三平方メートル)を買い受けた。代金は、一平方メートルあたり七万一九九五円であったが、平成元年七月末までに、吉岡はこれを了解していた。
(〔証拠略〕)
三 争点1について判断する。
1 本件売買に対しては、これを特に認めた条例も議会の決議もなかったものと認められる(弁論の全趣旨)から、地方自治法二三七条二項により、適正な対価によるのでない限り、本件売買は違法と解される。そして、適正な対価とは、原則として時価をいうものと解される。しかし、事例の少ない不動産取引において、厳密に時価が認定できるかは疑問を挟む余地がある。また、その点はしばらくおくとしても、財産の譲渡が必要となる場面はさまざまである。そこで、同項にいう「適正な対価」には、事情に応じて若干の幅があると解すべきである。
2 鑑定人は、佐海和夫に売却された土地の売却当時の正常価格が三〇二六万円であると鑑定する。この結果及び以下に検討するところに照らし、佐海和夫への売却価格が違法に低かったとはいえない。
3 鑑定人は、佐海正夫に売却された土地の売却当時の正常価格は合計三二四七万円、愛媛産業に売却された土地は六四六二万円と鑑定する。これらは、それぞれ本件売買価格よりも約一三パーセント高い。鑑定の結果及び公示価格(〔証拠略〕)によれば、三瓶町中心部付近の価格が低落傾向にあったとは認められない。さらに、愛媛産業に売却された土地の評価方法など、専門的な根拠があるわけではなく(〔証拠略〕)、合理性のあるものかどうか、疑問を挟む余地がある。また、鑑定の結果によれば、町は佐海正夫や愛媛産業に対して佐海和夫よりも好条件を提示したといえ、このような差を設けたことの合理性も問題なしとしない。
これらの事実によれば、佐海和夫に売却された土地を除き、本件売買価格は適正でないと考える余地はある。
4 しかしながら、第三の二で認定したとおり、本件土地は、複数の売却の希望があって売却に踏み切られたものではなく、町議会で遊休地処分の話題が出て町側から売却することになったものである。そこで、価格が低くなるのはある程度やむをえないとも考えられる。そして、地価が上昇していなかったとしても、町が進んで高値をつけ、それが地価を引き上げる契機となるのは望ましいことではない。第三の二1で認めた町の現況に照らせば、地場産業育成の必要に役立つ買手を確保する必要があると考えたことも不合理とはいえない。
また、原告は、相当数の取引事例あるいは公示価格をあげる。しかしながら、その多くは、町中心部の商業地域内にあるなど、立地条件が大きく異なるから、これらから当然に本件価格が適正を欠くとはいいがたい。本件土地のすぐ東側にある吉岡の買い受け地については、面積が大きくないこと、吉岡が売却を希望しつづけてきた経過や町中心部への近さなどを考えると、本件土地とはやや事情が異なるというべきである。また、本件土地のすぐ西側にある朝立一番耕地二番一(〔証拠略〕)についても、愛媛県の買収地という特殊な事例であって、原告の主張を考慮しても、本件価格が不適正であることを基礎付けるということは困難である。
5 なお、本件売却は、公開の入札など一般住民が参加できる方法では行われなかったけれども、埋立地の売却自体については議会で話題となったのであるから、全く密室で行われたということはできない。そして、本件売却そのものについて、前記諮問委員会の関与や議員全員協議会での承諾など、町議会がある程度関与しているから、町長の恣意に基づいて本件売買が行われたとは認めがたい。
6 このようにみてくると、本件売買価格は、適正でないとはいえず、被告の行為が町に対して違法であったとまではいえない。したがって、そのほかの点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。そこで、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八束和廣 裁判官 細井正弘 久留島群一)